2018年1月30日火曜日

長島有里枝さんの本

昨年写美であった長島有里枝さんの個展「そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。」を観に行って、改めて長島有里枝さんてラディカルだと思った。見るもしくは見られるという行為について、特にわたしは女なので考えることが多いのだとはっとし、そういうことを表現する長島さんてなんて強くて素敵な女性なんだろうと思った。
ほんとに間抜けにもわたしは長島さんの文章を読んだことがなくて!その後すばるのバックナンバーを探し、『テント日記』を読んだのでした。

もう、そのショックさがものすごい!大人の今でも子どものようにちゃんと繊細で、傷つき、怒り、泣いている。そして、老いた母にそうしか振る舞えない自分を辛く感じもし、どうしてこういう怒りが湧くのか考える。同時に大人なので作品制作以外にも時間を割かざるを得ず、辛かったり煩わしいと思うときもある。強さしなやかさはこの何度もトライアンドエラーを繰り返して泣いて傷ついて怒ってを繰り返した繊細な精神から生まれたんだなと本当に感動した。
「許せないことがあっても、愛することができる相手っているのかもしれない。」っていうのは苦しい思いをたくさんした長島さんが導きだした答えの一つで、それを読んでるだけのわたしが教えてもらうのはとってもずるい気がしたけど、でもものすごくほっとする言葉だなと思った。そしてこの日記の最後はものすごくささやかで静かな愛で溢れているのもものすごくいいと思った。とにかくこの日記、本当にめちゃくちゃに感動したんです!!!!!(語彙の消滅)

そして、今日、『背中の記憶』を読み終わった。時間が空いたのはわたしの悪い癖。ものすごく好きだなと思うものに出会うと、その人の他の作品に行くまでに時間がかかる。もうそこだけで世界が完結してる気に無意識でなってて臆病になるのだ。

果たしてやっぱり、本当にめちゃくちゃ感動して、読みながら「ねえすごいんだけど!!音読していい!?」などと家族に言ったり泣きまくったりとにかく感情が忙しくなる本だった。

子どもの頃の記憶、読んでいてああこういう風に嬉しかった、こんなことがいちいち恥ずかしかった、悲しかった、断片的な記憶が立ち上って胸が苦しくなる。大人になると鈍感になって忘れてしまってた。
長島さんは文庫版あとがきで「わたし自身はこれをエッセイと呼ぶことに抵抗がある」「わたしの書いたものはわたしの主観に基づいて編集されていて、自分のなかで辻褄を合わせるためだけに創作されてもいる」と強調している。だとしたらやっぱり長島さんは大人になっても楽な方(昔鈍感力とかいう本が流行ったよね〜ほんとうっせいうっせいと思ったよ〜楽してんじゃねえよ!)に流されず、子どものようにではなく今も子どもの繊細さそのものを持っているんだなとやっぱり感動してしまった。子どもの頃の思い出、見たもの、心の動きがまるで今そこで体験しているかのように丁寧に書かれているから。
(創作ということに関して、最新のすばるでの対談で、お母さんがテント日記について、自分の記憶とは違うところがあるけど、これは有里ちゃんの物語だって分かってるよと言っていたとあり、そこもめちゃくちゃに感動した。それに対して長島さんが母は物語を読むのがうまいと思っていることも)

どの話も本当に素敵なんだけど、一番好きなのは、「マーニー」。
マーニーは母の弟まあ兄ちゃん。兄ちゃんと呼ばれるだけあって大人になりきれてなくて、子ども嫌いを公言する気難しい叔父さん。怖いとびくびくしつつ、長島さんが一人でマーニーの趣味部屋に遊びに行くと、一人の人間としてちゃんともてなしてくれるシーンがまた最高に素敵なんだ…二人で無線したり、外国のコイン見せてくれたり…
(昨日寝る前このシーンを思い出して泣きながら眠りました…本当に美しいんだもの)

長島さんのおじいさん、マーニーにとってのお父さんが亡くなって、それからのシーンが本当にものすごくてもうこれ読まないでわたし何してたん!!!???って感じ。
お葬式でマーニーだけ泣かずいろんなことに怒りまくって怒鳴ったりしてて(でも奥さんにはちゃんと謝る)一人自宅に戻って部屋にこもってしまう。長島さんは外で買ったカプチーノを持ってマーニーのもとに行く。
「マーニー、わたしにはわかる。辛かったね。」
マーニーはどうしてすぐに怒ってしまうのか、何がそんなに悲しかったのか、そして何が欲しかったのか。それが長島さんにはわかる。マーニーも子どもと同じ繊細さを抱えていて、場にそぐう大人としての振る舞いが苦手というか、そうとしかできなくて辛かったんだなとわたしは思った。こんなのさあ〜〜目が溶けるって!!!!!うわ〜〜〜〜〜〜ん!!!

なんだかわたしの抜き出し方だと、子どもの繊細さを持つって辛い切ないことみたいだけど、もちろんそれだけじゃなくてみんなで遊んだ時の気持とか、わたしのことブタって呼ばないでとちゃんと言える強さとか、おばあさんの座りだこを懐かしく思い出したり、高崎で過ごす夏休み、方言がうつちゃったり、全部本当にきれい。確かに過ぎてしまっていまはもうない時間だから切なさからは逃れられないけど…、
ああ〜〜それにしたってだらだら感想書いても本の中の美しさに全然せまれない。でもどうしても言わずにおれないって感じなのだ。こんなに素敵な本が新刊書店ですっとすぐに買えるなんてものすごいラッキーなことだと思う。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062931083


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